前集_151

水不波則自定
鑑不翳則自明
故心無可清
去其混之者
而清自現
楽不必尋
去其苦之者
而楽自在

水は波たたざれば、おのずから定まり
鑑は翳らざれば、おのずから明らかなり
ゆえに心は清くすべきなし
そのこれを混らすものを去りて
清おのずから現わる
楽しみは必ずしも尋ねず
そのこれを苦しむるものを去りて
楽しみおのずから在す

水は波がなくなれば自然に静まる
鏡は汚れがなくなれば自然に明るくなる
人の心は清くしなくてもよい
人の心もにごりを取り去れば
自然に清らかになる
楽しみも外に求める必要はない
心身を苦しめる根源を取り去りさえすれば
おのずと楽しくなる

前集_152

有一念而犯鬼神之禁
一言而傷天地之和
一事而醸子孫之禍者
最宜切戒

一念にして鬼神の禁を犯し
一言にして天地の和を傷り
一事にして子孫の禍いを醸すものあり
最もよろしく切に戒むべし

でき心が神霊のおきてを犯し
一言が社会の平和を破り
一事が子孫に災いを及ぼすことがある
とくと用心するがよい

前集_153

事有急之不白者
寛之或自明
毋躁急以速其忿
人有操之不従者
縦之或自化
毋操切以益其頑

事これを急にして白かならざるものあり
これを寛にせばあるいはおのずから明らかならん
躁急にしてもってその忿りを速くことなかれ
人、これを操りて従わざるものあり
これを縦てばあるいはおのずから化せん
操ること切にしてもってその頑を益すことなかれ

物事には急き立てても明らかにならないことがある
伸びやかにすれば自然に明らかになることもある
せっかちにして人の怒りを招くな
人を操ろうとすると従わない者がいるが
自由にしてやると自分から言う事を聞くこともある
無理矢理あやつろうとして余計に頑なにするな

前集_154

節義傲青雲
文章高白雪
若不以徳性陶鎔之
終為血気之私
技能之末

節義は青雲に傲り
文章は白雪よりも高きも
もし徳性をもってこれを陶鎔せざれば
ついに血気の私
技能の末とならん

節義は高位高官以上と自負し
教養は白雪という名曲よりも高尚であっても
人間性で陶治しなければ
結局は血気にはやった私行
小手先の末技えしかない

前集_155

謝事当謝於正盛之時
居身宜居於独後之地

ことをしゃするはまさにせいせいのときにしゃすべし
みをおくはよろしくどくごのちにおくべし

地位を退くのは全盛の時にするのがよい
身の置き場所は人と争わない所がよい

前集_156

謹徳須謹於至微之事
施恩務施於不報之人

とくをつつしむはすべからくしびのことをつつしむべし
おんをほどこすはつとめてむいざるのひとにほどこせ

人目につかないところでする行為こそ、注意深く慎重に行うべきだ
恩返しなど期待できない相手のためにこそ恩を施すべきだ

前集_157

交市人不如友山翁
謁朱門不如親白屋
聴街談巷語
不如聞樵歌牧詠
談今人失徳過挙
不如述古人嘉言懿行

しじんにまじわるは さんおうをともとするにしかず
しゅもんにえっするは はくおくにしたしむにしかず
がいたんこうごをきくは
しょうかぼくえいをきくにしかず
きんじんのしっとくかしょをだんずるは
こじんのかげんいこうをのぶるにしかず

都会の人と付き合うより山中の老人を友とする方がいい
権門に近づくより貧しい人々と親しくする方がいい
町中の噂話を聞くより 樵や牧童の歌声に耳を傾ける方がいい
周りの人々の悪口を言うより 先人の立派な言行を語った方がいい

前集_158

徳者事業之基未有基不固
而棟宇堅久者

徳は事業の基なりいまだ基固からずして
棟宇の堅久なるものはあらず

事業の基礎は徳にある
緩い地盤に建つ家屋が長持ちしたためしはない

前集_159

心者後裔之根未有根不植
而枝葉栄茂者

心は後裔の根なりいまだ根植えずして
枝葉の栄茂するものはあらず

子孫繁栄のための根は心である
根がしっかりしてこそ枝葉が茂るのだ

前集_160

前人云
抛却自家無尽蔵
沿門持鉢効貧児
又云
暴富貧児休説夢
誰家竃裡火無烟
一箴自眛所有
一箴自誇所有
可為学問切戒

前人云う
「自家の無尽蔵を抛却して
門に沿い鉢を持して貧児に効う」
また云う
「暴富の貧児、夢を説くを休めよたが
家の竃裡か火に烟りなからん」
一はみずから所有に昧きを箴しめ
一はみずから所有に誇るを箴しむ
学問の切戒となすべし

古人が言った
自分の家の無尽蔵の宝をほったらかして
一軒一軒物乞いをして歩く貧乏人の子供の真似をする
古人がまた言った
にわか成金よ、自分をひけらかすな
どの家からも炊煙が立っているぞ
前者は自分の持っているものを過小評価するなと戒め
後者は自分の持っているものを過大評価するなと戒めている
これは学問をする上で肝に銘じることだ

前集_161

道是一重公衆物事
当随人而接引
学是一個尋常家飯
当随事而警惕

道はこれ一重の公衆物事なり
まさに人に随って接引すべし
学はこれ一個の尋常家飯なり
まさに事に随って警惕すべし

道はだれもが追究すべきものであるから
その人の性情に応じて導けばよい
学問は三度の食事のようなものであるから
気軽に取り組み空理空論は戒めよう

前集_162

信人者
人未必尽誠
己則独誠矣疑人者
人未必皆詐
己則先詐矣

ひとをしんずるものは
ひといまだかならずしも ことごとくはまことならざらんも
おのれは すなわち ひとりまことなり
人を疑うは
人いまだ必ずしもみな詐らざるも
己れすなわちまず詐る

人を信じる者は
人が誰もみな誠実であるとは限らないが
人を信頼する者は、自分だけは誠実である
人は誰もみないつわるとは限らないが
人を疑う者は、自分がまずいつわっている

前集_163

念頭寛厚的
如春風煦育
万物遭之而生
念頭忌刻的
如朔雪陰凝
万物遭之而死

念頭寛厚なるは
春風の煦育するがごとし
万物これに遭うて生ず
念頭忌刻なるは
朔雪の陰凝するがごとし
万物これに遭うて死す

心が伸びやかで豊かな人は
春風が育てるようで
万物がそのおかげで生育する
心が残忍な人は
北国の雪が凍らせるようで
万物がそのために枯死する

前集_164

為善不見其益
如草裡東瓜
自応暗長
為悪不見其損
如庭前春雪
当必潜消

善をなしてその益を見ざるは
草裡の東瓜のごとし
おのずからまさに暗に長ずべし
悪をなしてその損を見ざるは
庭前の春雪のごとし
まさに必ず潜に消ゆべし

善いことをしても その利益が目に見えないのは
たとえば草むらの冬瓜が
人知れず生長するようなものだ
悪いことをしても その損失が目に見えないのは
たとえば庭先の春の雪が
いつのまにか消えるようなものだ

前集_165

遇故旧之交
意気要愈新
処隠微之事
心迹宜愈顕
待衰朽之人
恩礼当愈隆

故旧の交わりに遇いては
意気いよいよ新たなるを要す
隠微の事に処しては
心迹よろしくいよいよ顕わすべし
衰朽の人を待には
恩礼まさにいよいよ隆んにすべし

古くからの友人にあったら
ますます気持ちを新たにしたいものだ
人の目につかないことを処理するには
心持も行動もますます明白にしたいものだ
年老いた人に接するには
恩恵と礼遇をますます盛んにしたいものだ

前集_166

勤者敏於徳義
而世人借勤以済其貧
倹者淡於貨利
而世人仮倹以飾其吝
君子持身之符
反為小人営私之具矣惜哉

勤は徳義に敏し
而して世人は勤を借りてもってその貧を済う
倹は貨利に淡し
而して世人は倹を仮りてもってその吝を飾る
君子身を持するの符
かえって小人、私を営むの具となる惜しいかな

勤めるとは共に道徳に励むことであるのに
世の人は貧しさから抜け出すことだと思っている
倹とは財貨に淡白なことであるのに
世の人は逆に自分のケチを飾る口実にしている
君子が身を保っていくための勤倹という守り札は
かえって小人が私欲をはかる道具となってしまっている
まことに惜しいことである

前集_167

憑意興作為者
随作則随止
豈是不退之輪
従情識解悟者
有悟則有迷
終非常明之灯

意の興るに憑りて作為するは
随ってなせば随って止む
あにこれ不退の輪ならんや
情の識るに従って解悟するは
悟ることあれば迷うことあり
ついに常明の灯にあらず

その気になったら行動するというのでは
行動したかと思うと中止するので
これではどうして後ずさりしない車輪であろうか
俗人の感情知識で悟るのでは
悟るかと思えば迷うので
結局はいつも明るい燈ではない

前集_168

人之過誤宜恕
而在己
則不可恕
己之困辱当忍
而在人
則不可忍

ひとのかごは よろしくゆるすべきも
おのれにありては
すなわちゆるすべからず
おのれのこんじょくは まさにしのぶべきも
ひとにありては
すなわちしのぶべからず

他人の過ちは許すように
だが自分の過ちは許さないようにすべきだ
自分が苦境に陥った時はひたすら耐えること
だが人が苦境にある時は救いの手を差し伸べねばならない

前集_169

能脱俗便是奇
作意尚奇者
不為奇而為異
不合汚便是清
絶俗求清者
不為清而為激

よく俗を脱すればすなわちこれ奇
作意に奇を尚ぶは
奇とならずして異となる
汚に合せざればすなわちこれ清
俗を絶ちて清を求むるは
清とならずして激となる

世俗を超脱できること それこそ非凡な人である
わざと奇をてらう者は
奇人ではなく変人である
汚れに染まらないこと それこそ高潔な人である
世俗から離脱して高潔を求める者は
高潔な人ではなく過激な人である

前集_170

恩宜自淡而濃先
濃後淡者
人忘其恵
威宜自厳而寛先
寛後厳者
人怨其酷

おんはよろしくあわきよりしてこくすべし
こきをさきにして あわきをのちにせば
ひと そのめぐみをわすれん
威はよろしく厳よりして寛なるべし
寛を先にして厳を後にするは
人その酷を怨む

人に恩を施すなら あっさりとしたところから始め、濃密にしていくべきだ
最初に濃密にして後であっさりとすると
人がそれが恩恵であると感じなくなる
威厳は始めは厳格にして後に寛大にするのがよい
先に寛大にして後で厳格にすれば
人はその残酷なことを恨む

前集_171

心虚則性現
不息心而求見性
如発波覓月
意浄則心清
不了意而求明心
如索鏡増塵

心虚なればすなわち性現わる
心を息めずして性を見んことを求むるは
波をひらいて月を覓むるがごとし
意浄ければすなわち心清し
意を了せずして心を明らかにせんことを求むるは
鏡を索めて塵を増すがごとし

心が空虚になれば 本性が現れる
心を動くままにして本性を見ようとするのは
波をかきたてて月を求めるのと同じである
意識が清ければ 心も清らかである
意識を始末しないで心を明らかにするのを求めるのは
鏡が明らかになるのを求めながら
塵を積んで曇らせるのと同じである

前集_172

我貴而人奉之
奉此峨冠大帯也
我賤而人侮之
侮此布衣草履也
然則
原非奉我
我胡為喜
原非侮我
我胡為怒

われたつとくして ひとこれをほうずるは
このがかんだいたいをほうずるなり
われいやしくして ひとこれをあなどるは
このふいそうりをあなどるなり
しからば
もとわれをほうずるにあらず
われなんぞよろこびをなさんもと
われをあなどるにあらずわれ
なんぞいかりをなさん

人が高位高官の者を敬うのは
その肩書きや地位に媚びているのだ
人が貧しい人を侮辱するのは
そのみすぼらしさを馬鹿にしているのだ
私自身が敬われている訳ではないのに
喜ぶことがあろうか
私自身が侮辱されているわけではないのに
怒ることがあろうか

前集_173

為鼠常留飯
憐蛾不点灯
古人此等念頭
是吾人一点生
生之機無此
便所謂土木形骸而已

「鼠のためにつねに飯を留め
蛾を憐れみて灯を点ぜず」
古人のこれらの念頭は
これ吾人一点生々の機なり
これなければ
すなわち謂わゆる土木の形骸のみ

ネズミが餓死しないように飯を残しておこう
蛾が火に飛び込まないように夜は蝋燭を点さない
古人のいうこのような慈悲の心こそ
我々人類が存続する要因なのだ
慈悲の心がなかったら
我々は土くれや木の人形にすぎない

前集_174

心体便是天体
一念之喜
景星慶雲
一念之怒
震雷暴雨
一念之慈
和風甘露
一念之厳
烈日秋霜
何者少得
只要随起随滅
廓然無碍
便与太虚同体

心体はすなわちこれ天体なり
一念の喜びは
景星慶雲
一念の怒りは
震雷暴雨
一念の慈しみは
和風甘露
一念の厳は
烈日秋霜
何者か少き得
ただ随って起これば随って滅し
廓然として碍りなきを要す
すなわち太虚と体を同じくす

人間の心はそのまま宇宙と同体である
喜びの心は
めでたい星や めでたい雲であり
怒りの心は
とどろく雷や はげしい雨である
慈しみの心は
のどかな風や 甘い露であり
厳しい心は
夏の日や 秋の霜である
どれも欠くことはできない
ただ起こっては消えて
からりとしてさわりもないようであれば
それで太虚と同体になる

前集_175

無事時
心易昏冥
宜寂寂
而照以惺惺
有事時
心易奔逸
宜惺惺
而主以寂寂

ことなきのときには
こころはこんめいしやすし
よろしくせきせきとして
てらすにせいせいをもってすべし
事あるの時は
心、奔逸しやすし
よろしく惺々にして
而も主とするに寂々をもってすべし

何もすることがない時には
心はぼんやりとして暗くなりやすい
そういう時には明るい理知で
みずからを照らすべきだ
仕事をしている時は
心がはやりがちだから
心を明らかにして
落ち着かせるのがよい

前集_176

議事者
身在事外
宜悉利害之情
任事者
身居事中
当忘利害之慮

事を議する者は
身は事の外にありて
よろしく利害の情を悉くすべし
事に任ずる者は
身は事の中に居て
まさに利害の慮りを忘るべし

物事を検討するときには
我が身を第三者の立場に置いて
利害の実情を見きわめるのがよい
物事を引き受けるときには
我が身を当事者の立場に置いて
利害の打算を忘れるべきだ

前集_177

士君子
処権門要路
操履要厳明
心気要和易
毋少随而近腥羶之党
亦毋過激而犯蜂蠍之毒

士君子
権門要路に処すれば
操履は厳明なるを要し
心気は和易なるを要す
少しも随にして腥羶の党に近づくことなかれ
また過激にして蜂蠍の毒を犯すことなかれ

君子たるもの
権力を行使する重要な地位についたら
言動は厳しく明らかにし
気持ちは穏やかにせよ
うかうかとして腹黒い輩に近づいてはならないし
また、ついやりすぎて小人どもの餌食になってはならない

前集_178

標節義者
必以節義受謗
榜道学者
常因道学招尤
故君子不近悪事
亦不立善名只渾然和気
纔是居身之珍

せつぎをひょうするものは
かならずせつぎをもってそしりをうけ
どうがくをぼうするものは
つねにどうがくによってとがめをまねく
ゆえにくんしはあくじにちかづかず
またぜんめいをたてずただこんぜんたるわきのみ
わずかにこれみをおくのちんなり

主義主張を振りかざすものは
それが誤っていた時に主義主張を理由に批判される
道徳を振りかざすものは
過ちを犯した時に道徳を理由に誹謗中傷される
だから悪に近づかず
しかもよい評判や名声とも無縁に穏やかな気持ちで生きるべきだ
それでこそ安全に世の中を渡ることができる

前集_179

遇欺詐的人
以誠心感動之
遇暴戻的人
以和気薫蒸之
遇傾邪私曲的人
以名義気節激礪之
天下無不入我陶冶中矣

ぎさのひとにあわば
せいしんをもってこれをかんどうせしめ
ぼうれいのひとにあわば
わきをもって これをくんじょうせよ
傾邪私曲の人に遇わば
名義気節をもってこれを激礪す
天下、わが陶冶中に入らざることなし

人をあざむいてばかりの嘘つき人間は
誠の心で感動させ
乱暴でねじけた人間は
穏やかな気分で包み込んでやるのがいい
心のねじけた小悪魔には
正義と気概で励ます
世の中には教化できないことはない

前集_180

一念慈祥
可以醞醸両間和気
寸心潔白
可以昭垂百代清芬

一念の慈祥は
もって両間の和気を醞醸すべく
寸心の潔白は
もって百代の清芬を昭垂すべし

慈悲の気持ちが
天地の間の温和な気風を醸すことができる
潔白な心が
永遠のかんばしい名を伝えることができる

前集_181

陰謀怪習
異行奇能
倶是渉世的禍胎
只一個庸徳庸行
便可以完混沌而召和平

いんぼうかいしゅう
いこうきのうは
ともにこれよをわたるのかたいなり
ただいっこのようとくようこうのみ
すなわちもってこんとんをまったくしてわへいをまねくべし

人を陥れるような策略や
奇妙な慣習、変わった行動、並外れた能力は
この世を生きていくうえで災いの元となる
ごく平凡な人間性と行動によって
十分に穏やかで満ち足りた生活が送れる

前集_182

語云
登山耐側路
踏雪耐危橋
一耐字極有意味
如傾険之人情
坎坷之世道
若不得一耐字撐持過去
幾何不堕入榛莽坑塹哉

ごにいう
やまにのぼりてはわきじにたえ
ゆきをふんではききょういたう
いちのたいのじきわめていみあり
けいけんのにんじょう
かんかのせどうのごとき
もしいちのたいのじをえてとうじすぎさらざれば
いかんぞしんぼうこうざんにだにゅうせざらんや

昔の人は言った
「山を登るときは険しい斜面に耐えた登り続け
雪道では危険な吊り橋に耐えた前に進め」
この耐えるという言葉には深い意味がある
この世には善人・悪人がいる
その中を渡り歩くのは容易ではない
しかし諦めて逃げれば山道で藪や穴に落ちるように
さらに苦境に陥る
大切なのは耐える力を身につけて辛抱強く生きていくことだ

前集_183

誇逞功業
炫燿文章
靠皆是外物做人
不知心体螢然
本来不失
即無寸功隻字
亦自有堂堂正正
做人処

功業に誇逞し
文章を炫燿するは
みなこれ外物に靠りて人となるなり
知らず心体螢然として
本来失わざれば
すなわち寸功隻字なきも
またおのずから堂々正々
人となるのところあるを

功業を人にほこり
学問を見せびらかすのは
みな後天的に取得したものに頼って
人間として生きているにすぎない
いったい心の本体が玉が輝くように完全であって
もともと失われることはない
たとえ少しの功業もなく一字も読めなくても
正々堂々と
人間として生きていけるのだ

前集_184

忙裡要偸閒
須先向閒時討個は柄
閙中要取静
須先従静処立個主宰
不然
未有不因境而遷
随事而靡者

忙裡に閒を偸まんことを要せば
すべからくまず閒事に向って個のは柄を討ぬべし
閙中に静を取らんことを要せば
すべからくまず静処より個の主宰を立つべし
然らざれば
いまだ境に困って遷り
事に随って靡かざるものあらず

忙しい時に暇をつくりたいと思うなら
まず暇な時に要領をつかむことだ
騒がしい所で静けさを得たいと思うなら
まず静かな所で主体性をうち立てることだ
そうしないと
必ず環境に振り回され
仕事にひきずられることになる

前集_185

不昧己心
不尽人情
不竭物力
三者可以為天地立心
為生民立命
為子孫造福

己れの心を昧まさず
人の情けを尽くさず
物の力を竭くさず
三者もって天地のために心を立て
生民のために命を立て
子孫のために福を造すべし

自分の本心を曇らせない
人の情を捨てきらない
物力を使いきらない
三つの心がけで天地のためには その心にかない
人民のためには その生活を安定させ
子孫のためには その幸福をつくることができよう

前集_186

居官有二語
曰惟公則生明
惟廉則生威
居家有二語
曰惟恕則情平
惟倹則用足

官に居るに二語あり
曰く「ただ公なれば明を生じ
ただ廉なれば威を生ず」
家に居るに二語あり
曰く「ただ恕なれば情平らかに
ただ倹なれば用足る」

公務員が守るべき心得が二つある
公正無私であってこそ正しい判断ができる
賄賂をはねつけてこそ威厳が保てる
家長にも守るべき心得が二つある
寛容であってこそ家庭を和やかにできる
倹約につとめてこそ暮らしを充足できる

前集_187

処富貴之地
要知貧賤的痛癢
当少壮之時
須念衰老的辛酸

富貴の地に処しては
貧賤の痛癢を知らんことを要し
少壮の時に当たっては
すべからく衰老の辛酸を念うべし

富貴の身にある時は
貧乏のつらさを知れ
若い時こそ
老後の辛酸を思え

前集_188

持身
不可太皎潔
一切汚辱垢穢
要茹納得
与人
不可太分明
一切善悪賢愚要包容得

みをじするに
はなはだしくはこうけつにすべからず
いっさいのおじょくこうわいをも
じょのうしえんことをようす
ひととともにするに
はなはだしくはぶんめいにすべからず
いっさいのぜんあくけんぐもほうようしえんことをようす

我が身を
あまりにも清潔に保ちすぎてはならない
あらゆる汚れや恥辱をも
人と接するときには
あまりにも白黒をハッキリ分けてしまってはいけない
あらゆる善悪賢愚も包容できるようであれ

前集_189

休与小人仇讐
小人自有対頭
休向君子諂媚
君子原無私恵

小人と仇讐することを休めよ
小人おのずから対頭あり
君子に向かって諂媚することを休めよ
君子もと私恵なし

小人とは争うな
小人には小人の喧嘩相手がある
君子には媚びへつらうな
君子はそのようなことで特別扱いはしてくれない

前集_190

縦欲之病可医
而執理之病難医
事物之障可除
而義理之障難除

しょうよくのやまいはいやすべきも
しゅうりのやまいはいやしがたし
事物の障りは除くべし
而して義理の障りは除きがたし

欲望をほしいままにする病気は治すことができるが
理屈をほしいままにする病気は治しにくい
物事にまつわる障害は取り除くことができるが
義理にまつわる障害は簡単には取り除けない

前集_191

磨蠣当如百煉之金
急就者非邃養
施為宜似千鈞之弩
軽発者無宏功

まれいは まさにひゃくれんのきんのごとくにすべし
きゅうしゅうするは すいようにあらず
施為はよろしく千鈞の弩に似たるべし
軽発は宏功なし

人間を磨くには百回鍛え上げた金属を研ぐようにしなければならない
短時間で仕上げてしまっては素質を十分に深く輝かせないから
事業を行うには強い石弓のようにすべきだ
軽々しく弾けるようでは大きな成果は得られない

前集_192

寧為小人所忌毀
毋為小人所媚悦
寧為君子所責修
毋為君子所包容

むしろ小人の忌毀するところとなるも
小人の媚悦するところとなることなかれ
むしろ君子の責修するところとなるも
君子の包容するところとなることなかれ

つまらぬ人間に嫌われたり謗られたりしてもよいが
媚びたり喜ばしたりするな
立派な人間に完全であれと責められてもよいが
大目に見られるようではいけない

前集_193

好利者逸出於道義之外
其害顕而浅
好名者竄入於道義之中
其害隠而深

利を好むは道義の外に逸出す
その害顕われて浅し
名を好むは道義のうちに竄入す
その害隠れて深し

利益を好む者は道義の外に飛び出すので
その害は露顕するので浅い
名声を好む者は道義の中に潜り込むので
その害は見えないので深い

前集_194

受人之恩雖
深不報
怨則浅亦報之
聞人之悪雖
隠不疑
善則顕亦疑之
此刻之極
薄之尤也宜切戒之

人の恩を受けては
深しといえども報ぜず
怨みはすなわち浅きもまたこれを報ず
人の悪を聞いては
隠れたりといえども疑わず
善はすなわち顕わるるもまたこれを疑う
これ刻の極
薄の尤なりよろしく切にこれを戒しむべし

人から受けた恩は
深くてもお返ししない
怨みは浅くても、仕返しをする
他人の悪い評判は
はっきりしていなくても疑わないのに
善い評判ははっきりしていても疑う
これらは冷酷きわまることだ
切実に戒めるがよい

前集_195

讃夫毀士
如寸雲蔽日
不久自明媚子阿人
似隙風侵肌
不覚其損

讃夫毀士は
寸雲の日を蔽うがごとく
久しからずしておのずから明らかなり
媚子阿人は
隙風の肌を侵すに似て
その損を覚えず

中傷は悪口を言う人は
太陽を覆い隠す ちぎれ雲のようなもので
まもなく真実はひとりでに明らかになる
こびへつらう人は
膚を冷えさせる すきま風のようなもので
我が身を損なうことに気づかない

前集_196

山之高峻処無木
而谿谷廻環則
草木叢生
水之湍急処無魚
而渕潭停蓄則
魚鼈聚集
此高絶之行
褊急之衷
君子重有戒焉

山の高峻なる処には木なし
而して谿谷廻環すれば
草木叢生す
水の湍急なる処には魚なし
而して渕潭停蓄すれば
魚鼈聚集す
この高絶の行
褊急の衷は
君子重く戒しむるあれ

山が高くそびえている所は草木は生えないが
谷川がぐるりとめぐると
草木が群がり生える
流れの激しい所は魚は住まないが
深い淵に水がたたえられると
魚が多く集まる
おのれのみ高しとする行いや
狭量でせっかちな性格は
君子として深く戒めよ

前集_197

建功立業者
多虚円之士
僨事失機者
必執拗之人

こうをたてぎょうをたつるは
おおくはきょえんのしなり
ことをやぶりきをうしなうものは
かならずしつようのひとなり

功業を打ち立てるのは
虚心で円満な心の持ち主が多い
事業に失敗し機会を失う者は
必ず執念深い人である

前集_198

処世不宜与俗同
亦不宜与俗異
作事不宜令人厭
亦不宜令人喜

よにしょしてはよろしくぞくとどうずべからず
またよろしくぞくとことなるべからず
ことをなすにはよろしくひとをしていわしむべからず
またよろしくひとをしてよろこばいむべからず

世の中を生きていくには俗な人間と価値観を同じにしてはならない
しかし俗世間とまったく違ってもいけない

前集_199

日既暮而猶烟霞絢爛
歳将晩而更橙橘芳馨
故末路晩年
君子更宜精神百倍

ひすでにくれてしかもなおえんかけんらんたり
としまさにくれんとしてしかもさらにとうさつほうけいたり
ゆえにまつろばんねんには
くんしさらによろしくせいしんひゃくばいすべし

太陽が地平線に沈んだ後でも空は夕焼けで美しく輝く
また年の瀬が迫るような寒い時期でも柑橘類の木は実をつけ香りを漂わせる
これは人間でも同じだ、晩年になっても
気力を充実させれば更なる飛躍を遂げることができる

前集_200

鷹立如睡
虎行似病
正是他攫人噬人手段処
故君子要聡明不露
才華不逞
纔有肩鴻任鉅的力量

鷹の立つこと睡るがごとし
虎の行くこと病むににたり
まさにこれ他の人を攫み人を噬手段のところ
ゆえに君子は、聡明露わさず
才華逞しからざるを要す
わずかに肩鴻任鉅の力量あり

鷹はまるで眠るがごとく立っている
虎はまるで病んでいるかのごとく歩いている
これこそ人をつかみ噛みつく手立てである
だから君子はおのれの賢明さが現れないようにし
おのれの才能が無暗に発揮されないようにしてこそ
はじめて大任を担う実力があるのだ



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