前集_051

我有功於人不可念
而過則不可不念
人有恩於我不可忘
而怨則不可不忘

われ人に功あるも念うべからず
而して過ちはすなわち念わざるべからず
人われに恩あらば忘れるべからず
而して怨みはすなわち忘れざるべからず

人に良いことをしたときは心に留めてはいけない
しかし済まないことをしたら忘れてはならない
人に受けた恩は忘れてはならない
しかし人に対する恨みは忘れなければならない

前集_052

施恩者
内不見己
外不見人
即斗粟
可当万鐘之恵
利物者
計己之施
責人之報
雖百鎰
難成一文之功

おんをほどこすものは
うちにおのれをみず
そとにひとをみずんば
すなわち とぞくも
ばんしょうのめぐみにあたるべし
物を利するには
己の施しを計り
人の報いを責むれば
百鎰といえども
一文の功を成しがたし

誰かに恩を施す場合
世間体を考えないで
できれば
わずかの恵みも
大きな施しになるだろう
人のためにする場合
施しを計り
報いを求めるようでは
たとえ大金だとしても一文にも値しない

前集_053

人之際遇
有斉有不斉
而能使
己独斉乎
己之情理
有順有不順
而能使人
皆順乎
以此相観対治
亦是一方便法門

ひとのさいぐうは
せいなるあり せいならざるあれども
よくおのれをして
ひとりせいならしめんや
己れの情理は
順なるあり順ならざるあり
而してよく人をして
みな順ならしめんや
これをもって相観対治せば
またこれ一の方便なる法門なり

他人の境遇をみると
幸せな人も、不幸せな人もいる
どうして自分だけを幸せにしておけようか
自分の思っていることさえも
順調に実現する、実現しないこともある
どうして他人の思いをみな順調に実現させようか
以上のことをよく考えて対応することも
便宜的な方法である

前集_054

心地乾浄
方可読書学古
不然見一善行
竊以済私
聞一善言
仮以覆短
是又藉寇兵
而齎盗粮矣

しんちけんじょうにして
まさにしょをよみ いにしえをまなぶべし
しからずんばいちぜんこうをみては
ひそかにもってわたくしをなし
いちぜんげんをきいては
かりてもってたんをおおわん
これまた寇に兵を藉して
盗に粮を齎すなり

心のくもりをなくしてから
古人の教えを学ぶこと
さもないと私欲のために古人の善行を
利用することになる
古人の名言を使って自分の過ちを
取り繕うことになる
これでは敵に武器を与え
盗賊に食べ物を送るようなものだ

前集_055

奢者富而不足
何如倹者貧而有余
能者
労而府怨
何如
拙者逸而全真

おごるものは とめどもたりず
なんぞ けんなるもののひんにしてあまりあるにしかん
能者は
労して而も怨みを府む
何ぞ
拙者の逸にして真を全うするにしかん

豊かでも不足をかこつ奢れる人よりは
貧乏でも余裕がある倹約家の方がよい
苦労しても人の怨みをかう優れたものよりは
人生を楽しんで人間らしさを全うする下手くその方がよい

前集_056

読書不見聖賢
為鉛槧傭
居官不愛子民
為衣冠盗講学
不尚躬行
為口頭禅
立業不思種徳
為眼前花

書を読みて聖賢を見ざれば
鉛槧の傭となる
官に居て子民を愛せざれば
衣冠の盗となる学を講じて
躬行を尚ばざれば
口頭の禅となる
業を立てて徳を種うるをおもわざれば
眼前の花となる

書物を読んでも教訓を学びとらなければ
版木を彫るのと変わりない
役人になっても民草を愛さなければ
衣冠をまとった盗人だ
学問を講じても実践が伴わなければ
生臭坊主の空念仏だ
事業に成功しても社会に還元しなければ
ただのあだ花だ

前集_057

人心有一部真文章
都被残編断簡
封錮了有一部真鼓吹
都被妖歌艶舞湮没了
学者須掃除外物
直覓本来
纔有個真受用

人心に一部の真文章あり
すべて残編断簡に
封錮一部の真鼓吹あり
すべて妖歌艶舞に湮没しおわる
学はすべからく外物を掃除して
直ちに本来を覓むべく
わずかに真受用あらん

人間の心には真の文章がそなわっているのに
不完全な書物にまったく
閉じ込められている
真の音楽がそなわっているのに
あやしげな歌やあでやかな踊りに全く沈められている
学ぶ者は外物を払いのけて
ひたむきに本来の真を求めてこそ
はじめて真の楽しみが得られる

前集_058

苦心中
常得悦心之趣
得意時
便生失意之悲

くしんのうちに
つねにこころをよろこばしむるのおもむきをう
とくいのときに
すなわちしついのかなしみをしょうず

人は苦しんでいる時
ふと喜びを発見するものだ
うまくいっている時
失意に見舞われることがある

前集_059

富貴名誉
自道徳来者
如山林中花
自是舒徐繁衍
自功業来者
如盆檻中花
便有遷徙廃興
若以権力得者
如瓶鉢中花
其根不植
其萎可立而待矣

ふうきめいよの
どうとくよりきたるは
さんりんちゅうのはなのごとし
おのずからこれじょじょはんえんす
こうぎょうよりきたるは
ぼんかんちゅうのはなのごとし
すなわちせんしはいこうあり
けんりょくをもってうるもののごときは
へいはつちゅうのはなのごとし
そのねうえざれば
そのしぼむことたちてまつべし

財産や名誉が
仁徳により得られたものであれば
ひとりでに枝葉が生い茂る野花のように
大きくなり続ける
事業の成功で得られたものであれば
移し替えたり捨てられたりする鉢植えのように
どうなるか不安定である
権力で得られたものであれば
数日で枯れてしまう花瓶の花のように
かりそめのものにすぎない

前集_060

春至時和
花尚鋪一段好色
鳥且囀幾句好音
士君子幸列頭角
復遇温飽
不思立好言行好事
雖是在世百年
拾以未生一日

春至り時和らげば
花なを一段の好色を鋪き
鳥かつ幾句の好音を囀ず
士君子、幸に頭角を列し
また温飽に遇う
好言を立て好事を行うことを思わざれば
これ世にあること百年なりといえども
あたかもいまだ一日も生きざるに似たり

春が来て気候が和らぐと
花さえも一段と美しい彩りをみせ
鳥すらも素敵な鳴き声でさえずる
士君子が幸いにも高い地位につき
衣食に満ち足りていながら
立派な言葉を述べて
立派な仕事をすることを考えないようでは
たとえ百年の長生きをしても
ただの一日も生きなかったのと同じだ

前集_061

学者有段兢業的心思
又要有段瀟洒的趣味
若一味斂束清苦
是有秋殺無春生
何以発育万物

まなぶものは だんのきょうぎょうのしんしありて
まただんのしょうしゃのしゅみあるをようす
もし一味斂束清苦ならば
これ秋殺ありて春生なし
何をもって万物を発育せん

学問を学ぶものは緩みなく恐れ慎む姿勢があるのは当然だが
さらに さらりと洒落た心の余裕を持っている必要がある

前集_062

真廉無廉
名立名者
正所以為貧
大巧無巧術
用術者
乃所以為拙

しんれんはれんめいなし
なをたつるは
まさにむさぼりとなすゆえんなり
大巧は巧術なし
術を用うるは
すなわち拙となすゆえんなり

真に清廉である者には清廉という評判は立たない
評判を欲することは
評判を得たいという貪りの根性から出ている
大いに功名な術には、功名な術などはない
術を用いる人は
実に拙劣な人である

前集_063

欹器以満覆
撲満以空全
故君子
寧居無不居有
寧処欠不処完

いきはみつるをもってくつがえり
ぼくまんはむなしきをもってまつたし
ゆえにくんしは
むしろむにいるもゆうにおらず
むしろけつにあるもかんにあらず

水壺は水がいっぱいになるとひっくり返る
貯金箱は中が空っぽのうちは壊されない
だから君子は
争いの絶えない所は避けて平和な所にいる
完全無欠を求めるより少し欠点のある環境を選ぶ

前集_064

名根未抜者
縦軽千乗甘一瓢
総堕塵情
客気未融者
雖沢四海利万世
終為剰技

めいこんのいまだぬけざるものは
たといせんじょうをかろんじていっぴょうにあまんずるも
すべてじんじょうにおつ
客気いまだ融けざるは
四海を沢し万世を利すといえども
ついに剰技となる

名誉心の抜けきっていない者は
たとえ諸侯の権勢を軽んじ一瓢の清貧に甘んじても
まるで俗物根性そのものだ
血気の勇が解けきっていない者は
たとえ四海を潤し万世に役立っても
結局は余計な仕儀だ

前集_065

心体光明
暗室中有青天
念頭暗昧
白日下生厲鬼

しんたいこうみょうならば
あんしつのうちにせいてんあり
ねんとうあんまいならば
はくじつのもとにれいきをしょうず

光り輝く心があれば
暗い部屋の中にいても青空が見える
心が暗いと
真昼間にだった化け物がでる

前集_066

人知名位為楽
不知無名無位之楽為最真
人知饑寒為憂
不知不饑不寒之憂為更甚

ひとのめいいのたのしみたるをしれども
ななく くらいなきのたのしみのもっともしんたるをしらず
人は饑寒の憂いたるを知りて
饑えず寒えざるの憂いのさらに甚だしきたるを知らず

人間は名利や地位が一番の幸せと思い込んでいる
本当はそんなものがない方が素晴らしい
人間は着るもの食べるものの事でいつも悩んでいる
本当は何不自由ない金持ちの方がよほど悩んでいる

前集_067

為悪而畏人知
悪中猶有善路
為善而急人知
善処即是悪根

悪をなくして人の知らんことを畏るるは
悪中なお善路あり
善をなして人の知らんことを急にするは
善処すなわちこれ悪根なり

悪事を働きながら露見を恐れるものには
まだいくらかの良心が残っている
自分の善行を吹聴したがるものは
善行自体に悪の芽を宿している

前集_068

天之機緘不測抑而伸
伸而抑
皆是播弄英雄
顛倒豪傑処
君子只是逆来順受
居安思危
天亦無所用其伎倆矣

天の機緘は測られず抑えて伸べ
伸べて抑う
みなこれ英雄を播弄し
豪傑を顛倒するところ
君子はただこれ逆に来たれば順に受け
安きに居て危きを思う
天もまたその伎倆を用うるところなし

天のからくりは、計り知れない、抑えては伸ばし
伸ばしては抑えても
それもこれも英雄を手玉にとり
豪傑をけころばす
だが君子はともかく、逆境がくれば順境として受け止め
無事の日にこそ危急に備えると
天も、その手並みを発揮することはない

前集_069

燥性者
火熾
遇物則焚
寡恩者
氷清
逢物必殺
凝滞固執者
如死水腐木
生機已絶倶
難建功業而延福祉

そうせいなるものは
ひのごとくさかんにして
ものにあわば すなわちやく
かおんなるものは
こおりのごとくきよけれども
ものにあわば かならずさいす
凝滞固執は
死水腐木のごとく
生機すでに絶ゆともに
功業を建てて福祉を延べがたし

情熱家は
燃え盛る炎のようだが
他のものに接触すると火傷させる
情に踊らぬ冷静な人は
氷のように冷たく清いが
他のものに接触すると気分を冷やしてしまう
物事に拘泥して頑なな者は
たまり水や腐った木のように
物を生かす力はもはやない
いずれも仕事をしあげて幸福を招くことは難しい

前集_070

福不可徼
養喜神以
為召福之本而已
禍不可避
去殺機以
為遠禍之方而已

ふくはむかうべからず
きしんをやしないて
もってふくをまねくのもととなさんのみ
禍は避くべからず
殺機を去りてもって
禍に遠ざかるの方となさんのみ

幸福はこちらから求めて迎えに行くものではない
喜びの心を自分の中で養い
自然に幸福が来てくれるようにする以外にない
災禍は避けようと思って避けられるものではない
殺気立つ心を取り去って
災禍より遠ざかる手立てをすることだ

前集_071

十語九中
未必称奇
一語不中則
愆尤駢集
十謀九成
未必帰功
一謀不成則
貲議叢興
君子所以寧黙毋躁
寧拙毋巧

じゅうごにきゅうあたるも
いまだかならずしもきとしょうせず
いちごあたらずんば
すなわちけんゆうならびあつまらん
十謀九成るも
いまだ必ずしも功を帰せず
一謀成らざれば
貲議叢がり興る
君子むしろ黙して躁なることなく
拙にして巧なることなきゆえんなり

十語った言葉のうち九つが的中しても
素晴らしいと称賛できない
一つ的中しなければ
非難が集中するだろうから
十謀のうち九謀まで成功したとしても
その人の功績だとされるとは限らない
成功しなかった一謀のために
中傷が群がり興ってくる
騒ぎ立てるよりは、むしろ沈黙を守り
巧であるよりは、むしろ拙なくするわけだ

前集_072

天地之気
暖則生
寒則殺
故性気清冷者
受享亦凉薄
唯和気熱心之人
其福亦厚
其沢亦長

天地の気
暖なれば生じ
寒なれば殺す
ゆえに性気清冷なる者は
受享もまた凉薄なり
ただ和気熱心の人は
その福もまた厚く
その沢もまた長し

自然の気候が
暖かいと万物が生育し
寒いと万物が枯死する
だから性格の冷たい人は幸せも薄い
ただ心の暖かく和やかな人だけが
幸せも厚く
恵みも久しい

前集_073

天理路上
甚寛稍遊心
胸中便覚広大宏朗
人欲路上
甚窄纔寄迹
眼前倶是荊棘泥塗

天理の路上は
はなはだ寛しやや心を遊ばせば
胸中すなわち広大宏朗なるを覚ゆ
人欲の路上は
はなはだ窄しわずかに迹を寄すれば
眼前ともにこれ荊棘泥塗なり

天理の道は
とても広いので少し心を遊ばせると
すぐ気持ちが広々と朗らかになるのを感じる
人欲の道は
とても狭いので一歩踏み込んだが最後
眼の前はみな茨や泥濘ばかりである

前集_074

一苦一楽相磨練
練極而成福者
其福始久
一疑一信参勘
勘極而成知者
其知始真

一苦一楽、相磨練し
練極まりて福を成すは
その福始めて久し
一疑一信、相参勘し
感極まりて知を成すは
その知始めて真なり

苦しかったり楽しかったりして練磨して
得られた幸福こそ
永続する
疑ったり信じたりして考え抜いて
得られた知識こそ
本物である

前集_075

心不可不虚
虚則義理来居心
不可不実
実則物欲不入

こころはきょにせざるべからず
きょなれば すなわちぎりきたりおる
こころはじつにせざるべからず
じつならば すなわちぶつよくいらず

心はガランと空けておかねばならない
空いていれば義がそこに入ってくる
心は満たしておかねばならない
満たしておけば物欲など入ってこない

前集_076

地之穢者多生物
水之清者常無魚
故君子
当在含垢納汚之量
不可持好潔独行之操

地の穢れたるは多く物を生じ
水の清めるはつねに魚なし
ゆえに君子は
まさに垢を含み汚れを納るるの量を在すべし
潔を好み独り行なうの操を持すべからず

汚い土にはたくさんの作物ができ
澄み切った水には全く魚は住みつかない
だから君子は
恥や汚れを許容する度量を持つべきであり
潔癖すぎて孤立する信条を持つべきではない

前集_077

泛駕之馬
可就駆馳
躍冶之金
終帰型範
只一優游不振
便終身無個進歩
白沙云
為人多病未足羞
一生無病是吾憂
真確論也

泛駕の馬も
駆馳に就くべし
躍冶の金も
ついに型範に帰す
ただ一に優游して振わざるは
すなわち終身個の進歩なし
白沙云う
「人となり多病なるはいまだ羞ずるに足らず
一生病いなきはこれわが憂いなり」
真に確論なり

どんな暴れ馬も
いつか乗りこなせるようになる
炉からほとばしり出た金属も
やがては鋳型におさまる
だが遊び好きでぐうたらな男は
一生、見込みがない
白沙(明代の学者)が言った
欠点だらけなのは恥ではない
一生、欠点がないこと、この方が厄介だ
その通りである

前集_078

人只一念貪私
便銷剛為柔
塞智為昏
変恩為惨
染潔為汚
壊了一生人品
故古人以不貪為宝
所以度越一世

ひとはただいちねんたんしなれば
すなわちごうをけしてじゅうとなし
ちをふさぎてこんとなし
おんをへんじてさんとなし
けつをそめておとなし
いっしょうのじんぴんをかいりょうす
ゆえにこじん、むさぼらざるをもってたからとなすは
いっせにどえつするゆえんなり

人間はわずかでも私欲が働くと
剛直さが崩れて柔弱になり
聡明さが塞がれて愚昧になり
仁愛の心が変じて残酷になり
清廉さが染まって薄汚れたものになる
こうして自分を台なしにしてしまう
だから古人は欲張らないことを宝とし
誘惑を乗り越えて順調な生涯を送った

前集_079

耳目見聞為外賊
情欲意識為内賊
只是主人翁
惺惺不昧
独坐中堂
賊便化為家人矣

じもくけんぶんはがいぞくたり
じょうよくいしきはないぞくたり
ただこれ主人翁
惺々不昧にして
中堂に独坐せば
賊すなわち化して家人とならん

耳目の楽しみは外から侵入する賊だ
欲望や何かに捉われる意識は心の内部にいる賊だ
だが主人公が冷静で
どっしりとかまえてさえいれば
内外の賊はそのしもべとなるだろう

前集_080

図未就之功
不如保已成之業
悔既往之失
不如防将来之非

いまだならざるのこうをはかるは
すでになれるのぎょうをたもつにしかず
きおうのしつをくゆるは
しょうらいのひをふせぐにしかず

見通しのないことを算段するよりは
目の前の確かな実績を大切にした方がよい
過去の失敗を悔やむよりは
将来の起こりうる失敗に備えた方がよい

前集_081

気象要高曠
而不可疎狂
心思要縝密
而不可瑣屑
趣味要冲淡
而不可偏枯
操守要厳明
而不可激烈

きしょうはこうこうなるをようするも
そきょうなるべからず
しんしはしんみつなるをようするも
させつなるべからず
趣味は冲淡を要し
而して偏枯なるべからず
操守は厳明を要し
而して激烈なるべからず

心構えは高遠で広大であるべきだが
大まかで度の外れたものであってはならない
ものを考えるときは緻密であるべきだが
細かすぎてはいけない
趣味はあっさりとした方がよいが
さりとて干からびてはならない
節操は厳しくはっきりしていなければならないが
さりとて過激であってはならない

前集_082

風来疎竹風過而竹不留声
雁度寒潭雁去而潭不留影
故君子
事来而心始現
事去而心随空

風、疎竹に来る風過ぎて竹に声を留めず
雁、寒潭を度る雁去りて潭に影を留めず
ゆえに君子は
事来たりて心始めて現われ
事去りて心随って空し

風が吹きすぎた後の竹林は静寂そのもの
雁が飛び去った後の水面は何の影も留めない
君子も同じく
ひとたび事に臨めば心を働かせ
事が過ぎ去れば空の境地に戻り、何事もなかったかのようだ

前集_083

清能有容
仁能善断
明不傷察
直不過矯
是謂蜜餞不甜
海味不鹹
纔是懿徳

せいなるもよくいるるあり
じんなるもよくだんをよくす
めいなるもさつをやぶらず
直にして矯に過ぎず
これを蜜餞甜からず
海味鹹からずという
わずかにこれ懿徳なり

清廉潔白を貫いても広く人も物も受け入れる
やさしい心を持ちつつも決断ができる
ものがよく見えても見えすぎにはならない
正直でありながら過激にならない
このような人物を砂糖漬けでも甘すぎず
海の物でも塩辛すぎないと言い
それでこそ立派な美徳である

前集_084

貧家浄払地
貧女浄梳頭
景色雖不艶麗
気度自是風雅
士君子
一当窮愁寥落
奈何輙自廃弛哉

ひんかもきよらかにちをはらい
ひんじょもきよらかにこうべをくしけずらば
けいしょくはえんれいならずといえども
きどはおのずからこれふうがなり
士君子
ひとたび窮愁寥落に当たるも
いかんぞすなわちみずから廃弛せんや

貧しい家であっても床を清らかに掃き
貧しい女性でも清らかに髪を櫛でとかして整える
外面的には艶やかで美麗でなくても
おのずと風雅の気品がただようものだ
一人前の男として
たとえ困窮や失意に見舞われたとしても
どうしてすぐに投げやりにしてよかろうか

前集_085

閒中不放過
忙処有受用
静中不落空
動処有受用
暗中不欺隠
明処有受用

かんちゅうにほうかせざれば
ぼうしょにじゅようあり
静中に落空せざれば
動処に受用あり
暗中に欺隠せざれば
明処に受用あり

暇な時間を適当に過ごさぬようにすれば
忙しい時に役立つことがあるものだ
活動していない時にも現実逃避しなければ
活動するときに楽しめる
誰も見ていない所でも、人を欺いたり悪事を隠したりしなければ
人前に出たときに楽しめる

前集_086

念頭起処
纔覚向欲路上去
便挽従理路上来
一起便覚
一覚便転
此是転禍為福
起死回生的関頭
切莫軽易放過

念頭起こるところ
わずかに欲路上に向かって去るを覚らば
すなわち挽きて理路上より来たせ
ひとたび起こりてすなわち覚り
ひとたび覚りてすなわち転ず
これはこれ、禍を転じて福となし
死を起こして生を回すの関頭なり
せつに軽易に放過することなかれ

心が動いたとき
私欲の方に行きそうだと気が付いたら
すぐに天理の方へ引き戻せ
心が動いたらすぐさま気付いて
気付いたらすぐさま改める
これこそ禍を福に転じ
死を生にひるがえす契機である
決して軽くみて投げやりにしてはいけない

前集_087

静中念慮澄徹
見心之真体
閒中気象従容識
心之真機
淡中意趣冲夷
得心之真味
観心証道
無如此三者

静中の念慮澄徹なれば
心の真体を見る
閒中の気象従容なれば
心の真機を識る
淡中の意趣冲夷なれば
心の真味を得
心を観じ道を証するは
この三者にしくはなし

活動していないときの思慮が澄きとおっていれば
心の本当の姿が見える
暇な時の気持ちがゆったりしていれば
心の本当の働きがわかる
淡白な心ばえが深く穏やかでいれば
心の本当の味わいが悟れる
本心を観照して正道を悟るには
この三つに勝るものはない

前集_088

静中静非真静
動処静得来
纔是性天之真境
楽処楽非真楽
苦中楽得来
纔見心体之真機

静中の静は真静にあらず
動処に静にし得来たりて
わずかにこれ性天の真境なり
楽処の楽は真楽にあらず
苦中に楽しみ得来たりて
わずかに心体の真機を見る

静かな場所で心静かにいられるのは当たり前
喧噪のなかで、それができてこそ
静の境地なのだ
歓楽の場所が楽しいのは当たり前
苦境の中で見つけた楽しみこそ本物だ
状況を超越してはじめて心の真の働きが得られる

前集_089

舎己毋処其疑
処其疑
即所舎之志多愧矣
施人毋責其報
責其報
併所施之心倶非矣

己を舎ててはその疑いに処することなかれ
その疑いに処すれば
すなわち舎つるところの志多く愧ず
人に施してはその報を責むることなかれ
その報を責むれば
併せて施すところの心もともに非なり

我が身を捨てたなら、ぐずぐずしてはならない
ぐずぐずしていては
せっかく捨てた自分の志をもしばしば恥ずかしめる
他人に施したら、見返りを求めてはならない
見返りを求めたら
せっかく捨てた自分の心も間違っていたことになる

前集_090

天薄我以福
吾厚吾徳以迓之
天労我以形
吾逸吾心以補之
天阨我以遇
吾亨吾道以通之
天且奈我何哉

てんわれにうすくするにふくをもってせば
われわがとくをあつくしてもってこれをむかえん
てんわれをろうするにかたちをもってせば
われわがこころをいつにしてもってこれをおぎなわん
てんわれをやくするにぐうをもってせば
われわがみちをとおらしめてもってこれをつうぜしめん
てんかつわれをいかんせん

天が幸福を授けてくれないなら
自分を磨いて幸福を得よう
天が肉体を苦しめるなら
精神を楽にして苦しみを減らそう
天が進む道を阻むなら
努力して我が道を貫き通そう
こうすれば天といえどもどうすることもできないだろう

前集_091

貞士無心徼福
天即就無心処牖其衷
嶮人着意避禍
天即就着意中奪其魄
可見
天之機権最神人之智巧
何益

貞士は福を徼むるにこころなし
天、すなわち無心のところに就いてその衷をひらく
けん人は禍いを避くるに意を着く
天、すなわち着意のうちについてその魄を奪う
見るべし
天の機権の最も神なるを人の智巧
何の益かあらん

信念の堅い人は福を求めることに関心がない
天はそこで、無関心な点に着目して、その人の真心を導く
陰険な人は禍を避けることに関心を集中する
天はそこに着目して、その人の魂をうばう
天の計らいは全く不思議であり
人間の知恵や技巧などなんの足しにもならない

前集_092

声妓晩景従良
一世之腑花
無碍貞婦白頭失守
半生之清苦
倶非
語云
看人只看後半截真
名言也

せいぎもばんけいにりょうにしたがえば
いっせのえんかもさまたげなし
ていふもはくとうにまもりうしなえば
はんせいのせいくも
ともにひなり
ごにいう
ひとをみるにはただのちのはんせつをみよと
しんにめいげんなり

若いころに好き勝手に遊び暮らしていても
どんなに派手な生活をしていても
晩年になって身を固めて、堅実な生活をすれば
過去の浮ついた生活は帳消しになる
ところが若いころは節度を守って生きていたのに
晩年になって欲におぼれてしまったり
人の道にはずれた生き方をしてしまったりすると
それまできちんと生きた半生が台なしになってしまう
人の一生は後半の人生をどう生きるかで決まる

前集_093

平民肯種徳施恵
便是無位的公相
士夫徒貪権市寵
竟成有爵的乞人

平民も肯んじて徳を種え恵みを施さば
すなわちこれ無位の公相なり
士夫もいたずらに権を貪り寵を市らば
ついに有爵の乞人となる

庶民であっても徳を植え恵みを施すなら
その人は無冠の宰相である
高い身分で権勢におもねる者は
爵位のある乞食である

前集_094

問祖宗之徳沢
吾身所享者
是当念
其積累之難
問子孫之福祉
吾身所貽者是要思
其傾覆之易

そそうのとくたくをとわば
わがみのうくるところのもの
これなり
その積累の難きを念うべし
子孫の福祉を問わば
わが身に貽すところのものこれなり
その傾覆の易きを思うことを要す

先祖がのこしてくれた恵みは何であるかと問うてみる
それは自分自身が受け継いだ資質
すべてである
子孫の幸福は何であるかと問えば
我々自身が残すものがそれである
たやすくくつがえることを考えるべきである

前集_095

君子而詐善
無異小人之肆悪
君子而改節
不及小人之自新

君子にして善を詐は
小人の悪を肆にするに異なることなし
君子にして節を改むるは
小人のみずから新たにするに及ばず

君子でありながら善をいつわるのは
小人が悪事を働くのと変わらない
君子でありながら変節するのは
小人が自分で新たになるに及ばない

前集_096

家人有過
不宜暴怒
不宜軽棄
此事難言
借他事隠諷之
今日不悟
俟来日再警之
如春風解凍
如和気消氷
纔是家庭的型範

家人、過ちあらば
よろしく暴怒すべからず
よろしく軽棄すべからず
この事言いかたくば
他事を借りて隠にこれを諷せよ
今日悟らざれば
来日を俟ちて再びこれを警めよ
春風の凍れるを解くがごとく
和気の氷を消すがごとくして
わずかにこれ家庭の型範なり

家族がしくじった場合
あからさまに怒ってはいけないし
ほったらかしにしてもいけない
直に言いにくいなら他の事にことよせて諌めよ
その日、解らないなら
またの日に繰り返して注意せよ
ちょうど春風が凍土を解かすように
暖気が氷を消すようにしてこそ
はじめて家族の模範といえよう

前集_097

此心常看得円満
天下自無欠陥之世界
此心常放得寛平
天下自無険側之人情

このこころつねにえんまんをみえなば
てんかおのずからけっかんのせかいなからん
この心つねに放ち得て寛平ならば
天下おのずから険側の人情なからん

自分の心をいつも完全だと理解したならば
天下には自然と不足している世界はない
自分の心をいつも広く平らかにしておけば
天下には自然と険しいねじけ心はない

前集_098

澹泊之士
必為濃艶者所疑
撿飾之人
多為放肆者所忌
君子処此
固不可少変其操履
亦不可太露其鋒芒

澹泊の士は
必ず濃艶なる者の疑うところとなる
撿飾の人は
多くは放肆なる者の忌むところとなる
君子、これに処して
もとより少しもその操履を変ずべからず
またはなはだその鋒芒を露わすべからず

あっさりした人は
ねちっこい人から疑われる
きびしすぎる人は
えてして だらしない人から嫌われる
君子は そういう場合
もとより生き方を少しも変えてはいけないが
また鋭い切っ先を見せすぎてもいけない

前集_099

居逆境中
周身皆鍼眨薬石
砥節礪行
而不覚
処順境内
満前尽兵刄戈矛
銷膏靡骨
而不知

逆境のうちに居れば
周身みな鍼眨薬石
節を砥ぎ行いを礪きて
而して覚らず
順境のうちに処れば
満前ことごとく尽兵刄戈矛
膏を銷し骨を靡して
而して知らず

逆境にあると
身の回りのものすべてが鍼や薬で
節操をとぎ行いを磨いているのに
気付かずにいる
順境にあると
目の前のものすべてが刃や戈で
それで肉を溶かし骨を削っているのに
わきまえずにいる

前集_100

生長富貴叢中的
嗜欲如猛火
権勢似烈焔
若不帯些清冷気味
其火焔不至焚人
必将自爍矣

富貴の叢中に生長するは
嗜欲、猛火のごとく
権勢は烈焔に似たり
もし些の清冷の気味を帯びざれば
その火焔、人を焚くに至らざるも
必ずまさにみずから爍かんとす

富貴な環境に生長した者は
その欲望は猛火のようであり
権勢は激しい炎のようである
もし少しでも清廉で冷静な心意気を身につけないと
その炎は他人を焼き尽くすか
あるいは必ず自分を焼き尽くしてしまう



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