前集_001

棲守道徳者
寂寞一時
依阿権勢者
凄涼万古
達人観物外之物
思身後之身
寧受一時之寂寞
毋取万古之凄涼

どうとくにせいしゅするは
いちじにじゃくばくたり
けんせいにいあするは
ばんこにせいりょうたり
たつじんはぶつがいのものをみ
みごのみをおもう
むしろいちじのじゃくばくをうくるも
ばんこのせいりょうをとるなかれ

道徳を守って生きれば
一時は孤立する
権力に追従すれば居心地は良いが
その後は永遠の孤独が襲ってくる
めざめた人は現世の栄達や物欲に惑わされず
理想に生きる
一時の孤立を恐れて
永遠の孤独を招いてはいけない

前集_002

渉世浅
点染亦浅
歴事深
機械亦深
故君子与其練達
不若朴魯
与其曲謹
不若疎狂

よをわたることあさければ
てんせんもまたあさく
ことをへることふかければ
きかいもまたふかし
ゆえにくんしはれんだつならんよりは
ぼくろなるにしかず
そのきょくきんならんよりは
そきょうなるにしかず

世の中を渡る経験が少なければ
いろどりも浅い
様々な経験を多くしていれば
機微に富むこともできる
そのため万事に如才ないよりは
いくらか間が抜けているほうがよい また馬鹿丁寧よりは一本気でぶしつけ
ぶっきらぼうの方が人間として信用できる

前集_003

君子之心事
天青日白
不可使人不知
君子之才華
玉韜珠蔵
不可使人易知

くんしのしんじは
てんあおくひしろく
ひとをしてしらざらしむべからず
くんしのさいかは
たまつつまれたまかくれ
ひとをしりやすからしむべからず

君子の信条や志は
やましいところがなく
人々に広く知らしめられる
君子の才能は
奥深く秘めて
人々に容易に知らせることはない

前集_004

勢利紛華
不近者為潔
近之而不染者為尤潔
智械機巧
不知者為高
知之而不用者為尤高

せいりふんかは
ちかづかざるものをいさぎよしとなす
これにちかづきてしかもそまらざるものをもっともいさぎよしとなす
ちかいきこうは
しらざるものをたかしとなす
これをしりてしかももちいざるものをもっともたかしとなす

富貴の人に
近づこうとしないのは潔癖ではある
だが近づいてもその影響に染まらないのが本当の潔癖だ
世の中の手練手管など
知らないほうがよい
だがそれを知りながらも用いようとしないのが本当の人格者だ

前集_005

耳中常聞逆耳之言
心中常有払心之事
纔是進徳修行的砥石
若言言悦耳
事事快心
便把此生埋在鴆毒中矣

じちゅうつねにみみにさからうのげんをきき
しんちゅうつねにこころにもとるのことあれば
わずかにこれとくにすすみおこないをおさむるのしせきなり
もしげんげんみみをよろこばし
じじこころにこころよければ
すなわちこのせいをとりてちんどくのうちにまいざいせん

耳に入るのは耳の痛い言葉ばかり
やることなすこと思うようにいかない
という状態の中でこそ人は磨かれる
耳に入るのは甘いお世辞ばかり
何事も思いのままという環境ならば
知らぬまに猛毒に侵されて一生を台無しにするだろう

前集_006

疾風怒雨
禽鳥戚戚
霽日光風
草木欣欣
可見
天地不可一日無和気
人心不可一日無喜神

しっぷうどうには
きんちょうもせきせきたり
せいじつこうふうには
そうもくもきんきんたり
みるべし
てんちにいちじつもわきなかるべからず
じんしんにちじつもきしんなかるべからざるを

暴風雨の日には
鳥類もあわれに寂しそうに見えるが
空が晴れて風も穏やかな日は
草木のはしまで生々と喜ばしそうに見える
その通り
天地間には一日として和気がなくては幸せに暮らせない
人の社会でも和気を以て互いに相交り感謝して満足する心がなくては平和な生活を営めない

前集_007

肥辛甘非真味
真味只是淡
神奇卓異非至人
至人只是常

肥辛甘は真味にあらず
真味はただこれ淡
神奇卓異は至人にあらず
至人はただこれ常

濃い酒や刺激の強いご馳走は本来の味ではない
淡泊こそ自然の味わいである
奇をてらうのは至人ではない
至人の生活態度は凡人と変わらない

前集_008

天地寂然不動
而気機無息
少停
日月昼夜奔馳
而貞明万古不易
故君子
閒時要有喫緊的心思
忙処要有悠閒的趣味

てんちはじゃくせんとしてうごかず
而して気機は息むことなく
停まること少なし
日月は昼夜に奔馳す
而して貞明は万古に易らず
ゆえに君子は
閒時に喫緊の心思あるを要し
忙処に悠閒の趣味あるを要す

天地は不動に見えて
実はめまぐるしく
変化している
昼夜の交代は絶え間ないが
日月の光は太古より不変である
同様に君子も
平穏な時に乱を思い
忙しい時ほどゆとりを持たねばならない

前集_009

夜深人静
独坐観心
始覚妄窮
而真独露
毎於此中
得大機趣
既覚真現
而妄難逃
又於此中
得大慚忸

よるふかくひとしずかなるとき
ひとりざしてこころをみずれば
はじめてもうきわまりて
しんひとりあらわるるをおぼゆ
つねにこのうちにおいて
だいきしゅをう
すでにしんあらわれて
もうのがれがたきをおぼゆれば
またこのうちにおいて
だいざんげをう

人の寝静まった夜更けに
独り座禅を組んで自分の心をみれば
妄想が消えて
真実の物事が現れてくる
いつもこのようにして
大いなる働きを会得する
真心が現れても
妄想から逃れがたいことをさとると
そこでまた
大いなる懺悔心を生ずる

前集_010

恩裡由来生害
故快意時
須早回頭
敗後或反成功
故払心処
莫便放手

恩裡由来害を生ず
ゆえに快意の時
すべからく早く頭を回らすべし
敗後あるいは反って功を成す
ゆえに払心の処
すなわち手を放つことなかれ

恩愛のうちに災いを生ずることが多い
だから楽しいときに
つとに反省すべきである
失敗した後に、かえって成功することがある
だから意にそまぬからといって
投げ出してはいけない

前集_011

藜口莧腸者
多氷清玉潔
袞衣玉食者
甘婢膝奴顔
蓋志以澹泊明
而節従肥甘喪也

れいこうけんちょうのものは
ひょうせいぎょくけつおおく
こんいぎょくしょくのものは
ひしつどがんにあまんず
けだしこころざしはたんぱくをもってあきらかに
しかしてせつはひかんよりうしなうなり

粗食に甘んじている人は
氷や玉のようにけがれがない
おしゃれや美食に走る人は
物に目がくらんで召使のように媚びへつらう
淡泊無欲であってこそ人は磨かれる
贅沢は人を駄目にする

前集_012

面前的田地
要放得寛
使人無不平之歎
身後的恵沢
要流得久
使人有不匱之思

面前の田地は
放ちえて寛きを要し
人をして不平の歎なからしむ
身後の恵沢は
流しえて久しきを要し
人をして不匱の思いあらしむ

この世では心を広く持ち
人の不平をかわないこと
死後は長く恩沢を残せば
人々はいつまでも慕ってくれる

前集_013

径路窄処
留一歩与人行
滋味濃的
減三分譲人嗜
此是渉世一極安楽法

けいろのせまきところは
いっぽをとどめて ひとのゆくにあたえ
じみのこまやかなるものは
さんぶをげんじて ひとのたしなむにゆずる
これこれよをわたるの いちごくあんらくののうなり

狭い道では
一歩よけて人に譲る
利益は独り占めしないで
三分の一は分け与える
これは一番楽な処世術である

前集_014

作人
無甚高遠事業
擺脱得俗情
便入名流
為学
無甚増益功夫
減除得物累
便超聖境

人となるに
はなはだ高遠の事業はなし
俗情を擺脱し得れば
名流に入る
学をなすに
はなはだ増益の功夫はなし
物累を減除し得れば
聖境を超ゆ

ひとかどの人物となるには
なにも高遠な事業をしなくとも
俗念さえ払い落とせたら
名士の仲間入りである
学問をするには
なにも増やす努力をしなくても
外物に煩わされることさえ減らし除けたら
聖人の境地に到達するのである

前集_015

交友
須帯三分侠気
作人
要在一点素心

友に交わるには
すべからく三分の侠気を帯ぶべし
人となるには
一点の素心を在するを要す

友人と交わる際には
義侠心が大事な要素だ
人間らしくあるには
赤子のような純真さが大切だ

前集_016

寵利毋居人前
徳業毋落人後
受享毋踰分外
修為毋減分中

寵利は人の前に居ることなかれ
徳業は人の後に落つることなかれ
受享は分外に踰ゆることなかれ
修為は分中に減ずることなかれ

利益は他人より先んじてはならないし
徳業は他人に遅れてはならない
楽しみは分相応を越えてはならないし
努力は分相応を減らしてはならない

前集_017

処世譲一歩為高
退歩即進歩的張本
待人寛一分是福
利人実利己的根基

世に処するには一歩を譲るを高しとなす
歩を退くるはすなわち歩を進むるの張本なり
人を待つに一分を寛にするはこれ福なり
人を利するは実に己を利するの根基なり

何事も一歩譲る心がけが大事だ
一歩退くことが後に一歩進むための伏線となる
人には寛大であるように努めよ
他人を利することが自分を利する基礎となる

前集_018

蓋世功労
当不得一個矜字
弥天罪過
当不得一個悔字

世間を蓋うの功労も
一個の矜の字に当たり得ず
天に弥るの罪過も
一個の悔の字に当たり得ず

偉大な功績をあげても
それを鼻にかけると帳消しになる
極悪犯であっても
後悔の気持ちが生じたときに成仏できる

前集_019

完名美節
不宜独任
分些与人
可以遠害全身
辱行汚名
不宜全推
引些帰己
可以韜光養徳

かんめいびせつは
よろしくひとりにんずべからず
いささかをわかちてひとにあたえて
もってがいをとおざけてみをまっとうすべし
辱行汚名は
よろしく全く推すべからず
些を引きて己れに帰し
もって光を韜み徳を養うべし

どこからも文句のつけようのない名誉と節義があったら
それを自分一人だけで獲得したのだと主張してはならない
少しずつ関係する者に評判を分け与え
害から遠ざかり 身を全うすべきである

前集_020

事事留個有余不尽的意思
便造物不能忌我
鬼神不能損我
若業必求者
巧必求盈者
不生内変必召外憂

じじ ゆうよふじんのいしをとどめなば
すなわち ぞうぶつもわれをいむあたわず
きしんもわれをそこなうあたわず
もし業は必ず満を求め
功は必ず盈を求むれば
内変を生ぜざれば必ず外憂を召かん

何事にも、ゆとりの気持ちがあれば
造物者も忌み嫌うことはできない
鬼神も害を加えることはできない
もし事業にも功名にも必ず満ち足りることを求めたならば
自分自身がおかしくなるか
さもなければ必ず外から心配事を招くであろう

前集_021

家庭有個真仏
日用有種真道
人能誠心和気
愉色婉言
使父母兄弟間
形骸両釈
意気交流
勝於調息観心万倍矣

かていにこのしんぶつあり
にちようにしゅのしんどうあり
人よく誠心和気
愉色婉言
父母兄弟の間をして
形骸ふたつながら釈け
意気こもごも流れしめば
調息観心に勝ること万倍なり

家庭には真の御仏がいるし
日常生活には真の道士がいる
真心を持って和やかにし
にこやかな顔で楽しく語り合って
父母兄弟の間柄を
お互いに形骸のへだてを越えて
気持ちを通じ合せるようにできれば
呼吸を整えることや本心を内観することよりも万倍も勝っている

前集_022

好動者雲雷風灯
嗜寂者死灰槁木
須定雲止水中
有鳶飛魚躍気象
纔是有道的心体

どうをこのむものは うんでんふうとう
せきをこのむものは しかいこうぼく
すべからく定雲止水の中に
鳶飛び魚躍るの気象あるべくして
わずかにこれ有道の心体なり

絶えず動き回る人は雲間に光る稲妻、風に揺らぐ灯火のようだ
静かすぎる人は火の消えた灰、立ち枯れた木のようだ
じっと動かぬ浮雲の間を飛び回るトビ
静かな水中で飛び跳ねる魚、こうした生き方が望ましい
静中に動あり、動中に静あり、これが道を修めた者の境地だ

前集_023

攻人之悪
毋太厳
要思其堪受
教人以善
毋過高
当使其可従

ひとのあくをせむるに
はなはだげんなることなかれ
そのうくるにたえんことをおもうをようす
人に教うるにも善をもってするは
高きに過ぐることなかれ
それをして従うべからしむべし

他人の悪いところを責める場合は
あまり厳しくしすぎてはいけない
相手が受けとめられる範囲を考えて責める必要がある
人に善いことをさせようとするとき
あまり高すぎてはならない
その人が実行できるようにしなければならない

前集_024

糞虫至穢
変為蝉
而飲露於秋風腐草
無光化為蛍
而燿釆於夏月
固知
潔常自汚出
明毎従晦生也

糞虫は至穢なるも
変じて蝉となりて
露を秋風に飲む腐草は
光なきも化して蛍となりて
釆を夏月に耀かす
まことに知る
潔きはつねに汚れより出で
明るきはつねに晦より生ずるを

糞土に生ずる蛆虫は、きわめて汚いが
羽化して蝉になり
秋風のなかで露を飲む、腐草は
光はないが、化して蛍になり
夏の月夜に光彩を輝かす
たしかにわかる
潔いものは常に汚れたものから生まれ
明るいものは常に暗いものから生まれる

前集_025

矜高倨傲
無非客気
降伏得客気下
而後正気伸情欲意識
尽属妄心
消殺得妄心尽
而後真心現

矜高倨傲は
客気にあらざるはなし
客気を降伏し得下して
後に正気伸ぶ情欲意識は
ことごとく妄心に属す
妄心を消殺し得尽くして
後に真心現わる

誇り高ぶり傲慢なのは
すべて空元気である
空元気をすっかり抑えつけられてこそ
はじめて真の元気が伸びてくる
情欲や利害打算の知恵などは
すべて妄心である
妄心をすっかり消滅できてこそ
はじめて真心が現れてくる

前集_026

飽後思味
則濃淡之境都消
色後思婬
則男女之見尽絶
故人常以事後之悔悟
破臨事之癡迷
則性定而動無不正

飽後、味を思えば
濃淡の境すべて消え
色後、婬を思えば
男女の見ことごとく絶ゆ
ゆえに人つねに事後の悔悟をもって
臨事の癡迷を破らば
性定まりて動くこと正しからざるはなし

食欲を満たした後に味のことを思うと
くどい、さっぱりの区別がすっかりなくなる
情事の後に色欲を思うと
男だ女だという考えはすっかり消える
だから人は、いつも事後に後悔することをわきまえて
その事におよんだおりの愚かな迷いを振り切ったならば
本性がすわり、行動に間違いがなくなる

前集_027

居軒冕之中
不可無山林的気味
処林泉之下
須要懐廊廟的経綸

けんべんのなかにおりては
さんりんのきみなかるべからず
りんせんのもとにおりては
すべからく ろうびょうのけいりんをいだくをようすべし

はでやかな地位にある時は
山林に隠れて住むような趣がなければならない
山林に閑居している時は
天下を治める気概がなくてはならない

前集_028

処世不必邀功
無過便是功
与人不求感徳
無怨便是徳

よにおりては かならずしもこうをもとめざれ
あやまちなき すなわち これ こうなり
ひとにあたえては とくにかんずることをもとめざれ
うらみなき すなわち これ とくなり

処世術としては功名を上げることは絶対条件ではない
むしろ間違いを起こさずに生きることが功名と言える
人と交わる時は我が人徳に感化することを求めるな
怨まれなかったら、それこそが我が人徳だ

前集_029

憂勤是美徳
太苦則無
以適性怡情
澹泊是高風
太枯則無以
済人利物

ゆうきんは これびとくなるも
はなはだ くるしむは すなわち
もってせいにかない じょうをよろこばしむるなし
澹泊はこれ高風なれども
はなはだ枯るればもって
人を済い物を利することなし

一所懸命にがんばるのは美徳であるが
度を越すと人間らしさが失われて
楽しめない
さっぱりとして無欲なのは立派であるが
枯れすぎては
生きている意味がない

前集_030

事窮勢蹙之人
当原其初心
功成行満之士
要観其末路

こときわまりいきおいせまるひとは
まさにそのしょしんをたずぬべし
こうなり おこないみつるのしは
そのまつろをみんことをようす

勢いがなくなり行き詰ったら
初心にかえり自分の原点を見つめなおすがいい
功成り、名遂げた人こそ
自分の終末を考える必要がある

前集_031

富貴家宜寛厚
而反忌刻
是富貴而貧賤其行矣
如何能享
聡明人宜斂蔵
而反炫耀
是聡明而愚蒙其病矣
如何不敗

富貴の家はよろしく寛厚なるべくして
反って忌刻なり
これ富貴にしてその行いを貧賤にするなり
いかんぞよく享けん
聡明な人はよろしく斂蔵すべくして
反って炫耀す
これ聡明にしてその病を愚もうにするなり
いかんぞ敗れざらん

金持ちで地位が高い人は当然、寛容で手厚いはずなのに
かえって人間嫌いで刻薄である
これは富貴でも、その行為は貧賤の人のものである
これではどうして楽しいことがあろうか
聡明な人は当然、その才智をつつみかくすかずなのに
かえってひけらかす
これは聡明でも、欠点は暗愚の人に異ならない
これではどうして失敗せずにおられようか

前集_032

居卑而後知登高之為危
処晦而後知向明之太露
守静而後知好動之過労
養黙而後知多言之為躁

ひくきにおりて しかるのちに たかきにのぼるのあやうきをなすをしる
くらきにおりて しかるのちに あかるきにむかうの はなはだあらわるるをしる
静を守りて後に動を好むの労に過ぐるを知る
黙を養いて後に多言の躁たるを知る

低い地位に安住できた時に高い地位に登ることの危険がわかる
暗い所に落ち着いてみると明るい場所が目立ちすぎることに気づく
静虚を守っているからこそ活動ばかりを好むのは、やりすぎであることをわきまえる
寡黙を守っているからこそ多弁がいかに騒がしいかをわきまえる

前集_033

放得功名富貴之心下
便可脱凡放得
道徳仁義之心下
纔可入聖

こうみょうふうきのこころをはなちえくださば
すなわち ぼんをだっすべし
どうとくじんぎのこころをはなちえくださば
わずかにせいにはいるべし

功績・名声・金・身分を得ようとする心を捨てられたら
もはや凡人ではない
道徳・仁義にすがる心を捨てられたら
聖人の仲間入りができる

前集_034

利欲未尽害心
意見乃害心之蟊賊
声色未必障道
聡明乃障道之藩屏

利欲はいまだ尽くは心を害せず
意見はすなわち心を害するの蟊賊なり
声色はいまだ必ずしも道を障げず
聡明はすなわち道を障げるの藩屏なり

利欲は完全に本心をそこなうわけではないが
意見こそが本心をむしばむ害虫である
名声・色欲は必ずしも道の妨げにはならないが
聡明こそが道を妨げる障害物である

前集_035

人情反復
世路崎嶇行不去処
須知退一歩之法
行得去処
務加譲三分之功

にんじょうははんぷくし
せいろはきくたり いきてゆきえざるところは
すべからくいっぽをしりぞくのほうをしるべし
ゆきてゆきうるところにも
つとめてさんぶをゆずるのこうをくわえよ

世間は甘くない
道は曲がりくねり、でこぼこしている
通りにくい道は一歩退いて先に通してやりなさい
通りやすい道でも三分譲る心がけを持ちなさい

前集_036

待小人
不難於厳
而難於不悪
待君子
不難於恭
而難於有礼

しょうにんをたいするに
きびしきをかたしとせざるも
にくまざるをかたしとす
君子を待つは
恭に難からずして
礼あるに難し

小人に厳しく当たるのは
たやすいが憎まずにいるのは難しい
君子を礼遇するのは
たやすいが程よい遇し方が問題だ

前集_037

寧守渾噩
而黜聡明
留些正気還天地
寧謝紛華
而甘澹泊
遺個清名在乾坤

むしろ渾噩をまもりて
聡明を黜け
些の正気を留めて天地に還せ
むしろ紛華を謝して
澹泊に甘んじ
個の清名を遺して乾坤にあれ

むしろ朴直を守るようにして
聡明さをしりぞけ
正気を留めて天地にかえせ
むしろ華美をしりぞけて
淡白に甘んじ
清き名を天地に残せ

前集_038

降魔者
先降自心心伏則
群魔退聴
馭横者
先馭此気気平則
外横不侵

まをくだすには
まずみずからのこころをくだせ こころふくさばすなわち
ぐんまもしろぞききく
横を馭するには
まずこの気を馭す気平らかなれば
外横侵さず

あらゆる悪魔的なものに打ち勝つには
まず自分の心に打ち勝て 自分の心に勝てたならば
どんな魔物も言うことを聞くはずだ
横着なものを制御するには
自分自身を制御せよ 自分自身が平静であれば
外道は侵さない

前集_039

教弟子如養閨女
最要厳出入
謹交遊
若一接近匪人
是清浄田中下
一不浄種子
便終身難植嘉禾

弟子を教うるは閨女を養うがごとし
最も出入を厳にし
交遊を謹むを要す
もしひとたび匪人に接近せば
これ清浄の田中に
ひとつの不浄の種子を下すなり
すなわち終身嘉禾を植えがたし

弟子を教育するのは箱入り娘を養育するように
最も大切なことは出入りする者を厳しくして
交際をつつしむことである
一度よからぬ者に近づくということは
清浄な田地に不浄な種子をまくと
それこそ一生、よい稲の苗を植えるのは難しいのと同じだ

前集_040

欲路上事
毋楽其便而姑為染指
一染指便深入万仭
理路上事
毋憚其難而稍為退歩
一退歩便遠隔千山

よくろじょうのことには
そのびんをたのしみて しばらくもゆびをそむるをなすなかれ
ひとたび ゆびをそめなば すなわちふかくばんじんにいらん
理路上の事は
その難を憚りてややも退歩をなすことなかれ
ひとたび退歩せばすなわち遠く千山を隔てん

一直線で欲に向かう道がある
そういう道には何かそこがよさそうに思えても絶対に指を染めてはならない
一度でも指を染めてしまうと抜け出せない深みに入り込んでしまうから

欲望のことは都合がよいのをいいことにして
かりにも手を出してはならない
ひとたび手を出してしまうや欲望という奈落の底に落ちてしまう
道理のことは、その困難なことを嫌がって
少しも尻込みしてはならない
ひとたび尻込みしてしまうや
道理から遥か遠くに隔たってしまう

前集_041

念頭濃者
自待厚
待人亦厚
処処皆濃
念頭淡者
自待薄
待人亦薄
事事皆淡
故君子居常嗜好
不可太濃艶
亦不宜太枯寂

念頭濃かなるは
みずから待つこと厚く
人を待つこともまた厚く
処々みな濃かなり
念頭淡きは
みずから待つこと薄く
人を待つこともまた薄く
事々みな淡し
ゆえに君子は居常嗜好
はなはだ濃艶なるべからず
またよろしくはなはだ枯寂なるべからず

ねちっこく考える者は
自分自身に対してねちっこいが
他人に対してもねちっこく
どんな場合でもねちっこい
あっさりと考える者は
自分自身に対してあっさりしているが
他人に対してもあっさりしていて
何事につけ、すべてあっさりしている
だから君子は平素の好みとしては
あまりねちっこく くどくてはいけないが
あまりにも枯れ果ててしまうのもよろしくない

前集_042

彼富我仁
彼爵我義
君子固不為君相所牢籠
人定勝天志一動気
君子亦不受造物陶鋳

かれとみならば われはじん
かれしゃくならば われはぎ
くんしはもとより くんしょうにろうろうせられず
人定まれば天に勝つ志一なれば気を動かす
君子また造物の陶鋳を受けず

相手が財力をかざせば仁で立ち向かう
相手が身分をかざせば義で応じる
君子は間違っても地位・財で丸め込まれない
人間の意志は天に勝つことができ、決めたら不屈の力が出る
君子は造物主にも支配されない

前集_043

立身不高一歩立
如塵裡振衣
泥中濯足
如何超達
処世不退一歩処
如飛蛾投燭
羝羊触藩
如何安楽

身を立つるに一歩を高くして立たずんば
塵裡に衣を振い
泥中に足を濯うがごとし
いかんぞ超達せん
世に処するに一歩を退いて処らずんば
飛蛾の燭に投じ
羝羊の藩に触るるがごとし
いかんぞ安楽ならん

一人の人間として生きていくには一歩高い視点に立たないと
まるで塵のなかで衣を振い
泥の中で足を洗うようなことになる
どうして世俗を超脱できようか
俗世間と付き合うには身を一歩退いて付き合わないと
まるで蛾が燈火に投じ
牡羊が垣根に角を突っ込んだようになる
どうして安楽に暮らせるだろうか

前集_044

学者要収拾精神
併帰一路
如修徳而留意於事功名誉
必無実詣
読書而寄興於吟咏風雅
定不深心

まなぶものは せいしんをしゅうしゅうして
いちろにあわせきせんことをようす
もし徳を修めて意を事功名誉に留むれば
必ず実詣なし
書を読みて興を吟咏風雅に寄すれば
定めて深心ならず

学問はわき目もふらずに励むことだ
業績や名誉に捉われると真髄は究められない
書物は読んでも
花鳥風月に心を寄せるようでは
思考力は養われない

前集_045

人人
有個大慈悲維摩屠劊
無二心也
処処
有種真趣味金屋茅簷
非両地也
只是欲蔽情封
当面錯過
使咫尺千里矣

人々
個の大慈悲あり維摩屠劊
二心なきなり
処々
種の真趣味あり金屋茅簷
両地にあらざるなり
ただこれ欲蔽い情封じ
当面に錯過せば
咫尺をして千里ならしむ

どんな人にも
慈悲の心があり維摩居士だろうが死刑執行人だろうが
その点に違いはない
どんな所にも
自然の趣があり大邸宅もあばら家も
その点に違いはない
私利私欲に惑わされ
ちょっと道をはずれる
それが後に千里も隔たってしまうのだ

前集_046

進徳修道
要個木石的念頭
若一有欣羨
便趨欲境
済世経邦
要段雲水的趣味
若一有貧着
便堕危機

徳を進め道を修るには
個の木石の念頭を要す
もしひとたび欣羨あれば
すなわち欲境に趨る
世を済い邦を経するには
段の雲水の趣味を要す
もしひとたび貧着あれば
すなわち危機に墮つ

人格を磨き人間的であろうとするなら
木や石のような欲望を捨てた思いが大切である
もしも羨む心を持つや
欲望の世界だ
世を救い国を治めるなら
行雲流水のように無心なおもむきが大切である
もしも執着する心を持つや
危険のるつぼだ

前集_047

吉人無論作用安詳
即夢寐神魂
無非和気
凶人無論行事狼戻
即声音咲語
渾是殺機

吉人は作用の安詳を論ずるまでもなく
すなわち夢寐神魂も
和気にあらざるはなし
凶人は行事の狼戻を論ずるまでもなく
すなわち声音咲語も
すべてこれ殺機

幸せをよぶ人は日常の生活が安らかで静かであることはいうまでもなく
たとえ夢みる魂までも
和やかである
不幸をよぶ人は日常の行為があくどいことはいうまでもなく
たとえその声音や笑い声までも
まるごと人の心を逆なでする

前集_048

肝受病
則目不能視
腎受病
則耳不能聴
病受於人所不見
必発於人所共見
故君子
欲無得罪於昭昭
先無得罪於冥冥

肝、病を受くれば
目、視ることあたわず
腎、病を受くれば
耳、聴くことあたわず
病いは人の見ざるところにて受けて
必ず人のともに見るところに発す
ゆえに君子は
罪を昭々に得ることなきを欲せば
まず罪を冥々に得ることなかれ

肝臓が病むと
目は見えなくなり
腎臓が病むと
耳は聞こえなくなる
このように病は人に見えない内部に起こって
やがて必ず誰にも見える外部に現れる
だから君子は
人前で罪を得たくないならば
まず人目につかぬ所で罪を得てはいけない

前集_049

福莫福於少事
過莫過於多心
唯苦事者
方知少事之為福唯
平心者
始知多心之為過

ふくはことすくなきよりふくなるはなく
わざわいはこころおおきよりわざわいなるはなし
ただ事に苦しむものは
まさに事少なきの福たるを知る
ただ心を平かにするものは
始めて心多きの禍いたるを知る

一番幸せなのは、する事が少ないことだ
一番禍いなのは、あれにもこれにも関心がひかれることだ
ただ仕事で苦労している者こそが
する事が少ないのが幸いであることをわきまえる
心を平静にする者こそが
あれにもこれにも心をちらすことが禍いであることをわきまえる

前集_050

処治世宜方
処乱世宜円
処叔季之世
当方円並用
待善人宜寛
待悪人宜厳
待庸衆之人
当寛厳互在

ちせいにしょしてはよろしくほうなるべく
らんせいにしょしてはよろしくえんなるべく
しゅくきのよにしょしては
まさにほうえんならびもちうべし
ぜんにんをまつにはよろしくかんなるべく
あくにんをまつにはよろしくげんなるべく
ようしゅうのひとをまつには
まさにかんげんたがいにそんすべし

安定した世の中では真面目に生きるべきだ
乱れた世の中では努めて円満に生きるべきだ
風紀も秩序も失われた時代であれば
志・信念を貫きつつ柔軟な臨機応変の対応を
善人には寛容な態度で接し
悪人には厳格な態度で接し
普通の人には
寛容と厳格の両面を使い分けて接する



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